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可奈さん
第6章 風
陽が傾き始めた。

夕陽を見るにはうってつけの場所にある七里ヶ浜の駐車場に、バイクを止めて一息つく。

小さな雲に隠れた太陽は、すぐに顔を出すだろう。


「海岸に下りてく人がいるわ」


メットを手に駐車場からすぐの砂妨壁の上から下を覗くと、波打ち際までが意外と近い。

塵一つない長い砂浜の上には、家族連れや犬を散歩させる女性、手を繋いだ恋人達が海を見つめ、波と戯れている。

海水浴に適さないこの海岸はまるで美しいパノラマを堪能する為だけにあるみたいだ。
ボードを立てて沖を眺めるサーファ-の影も、風景の中の句読点の役割を果たしている。


「見て…」

「………」


雲が途切れた瞬間から、砂浜も波打ち際も、沖から吹き寄せる風さえも、すべてが黄金色に耀き始めた。

人々が息をのむ。

黒く浮かび上がる江ノ島は影絵のようで、セピア色に染められた額のないその写真は、波の音だけが時を動かしていた。





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