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可奈さん
第6章 風
「泣けてきちゃうな」


可奈さんがぽつりと言った。


「俺も…」

「海の匂いなんて忘れてた」

「俺も…」


そこ此処でシャッター音が響く。


「私も撮ろう…」


可奈さんは両手を伸ばし、左右の親指と人差し指を組み合わせて長方形のキャンバスを作った。


「この角度がいいな…、かしゃっ。…ウフッ」

「アハハ…携帯のカメラがあるじゃないですか」

「いいの。
残しておかなくても忘れないから」


夕陽に照らされた顔が眩しそうに微笑んだ。

その柔らかそうな髪に指を通し、乱れた毛先を整えたり、夕陽に見とれる視線を遮って、唇を合わせたりしたら

そうしたら…

即ぶっ飛ばされるか。


忘れないと言ったその写真の中に、俺の姿はあるんだろうか。

すぐ傍にいる人に勝手な考えをめぐらせ、ため息ばかりが足元に溜まっていく。




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