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可奈さん
第8章 涙
エンジンの音だけを聴いて走った。

時々ギュッと腕に力を込めてくる可奈さんの気持ちは読めない。

ただ、あのマンションの前には、もうこのバイクしか止まらない。そしてもう、可奈さんの顔には笑顔しか浮かばない。

アイツを忘れさせる。

俺は心に誓った。



「可奈さん、メット、持っていってください」


バイクを降りてメットを外した可奈さんに言った。


「でも」

「後ろには誰も乗せないんで」

「…でももしも誰か…」

「誰も乗せません」

「……」

「大丈夫ですか?疲れたでしょう」

「…、大丈夫」


このまま部屋に着いてったら、どうなるかは分かっていた。
大切な人を、欲望のままにめちゃくちゃにしてしまう。


「俺帰ります」


シートに座り、メットをかぶろうとした。


「あ、うん。
あの、拓也さん、今日は…ありがとう」



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