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可奈さん
第12章 恋というもの
「風が冷たくなったわ」
「もう秋ですから」
俺達はほとんど話さなかった。
可奈さんの羽織ったトレンチコートの裾が膝を掠め、また元の位置へと戻る。
小さな手が腕に絡まってくる事はなく、彼女の靴音と俺の鼓動だけが沈黙のリズムを刻んでいく。
歩道橋を上がると墓地のような団地の向こう側にマンションの灯りが見える。
繋いだ手を緩めても、彼女の手はずっとここにあって指先だけが冷たかった。
確かな感触がもっと欲しい。
俺はその手を引き寄せて、その甲にキスをした。
「恥ずかしいわ」
「すみません」
歩くのをやめ、今度は彼女の目を見てもう一度唇と頬を押し付けた。
あなたに触れていたい。
薄闇で光る彼女の瞳に困惑の色が浮かぶ。
「た、拓也さん、もうここでいいわ……」
指先までを唇と舌でなぞった。
「拓……」
指先をそっと甘咬みして口に含んだ時、彼女の目から涙がポロンと零れた。
「あ、あの人と……、稔さんと同じ事しないで…」
「もう秋ですから」
俺達はほとんど話さなかった。
可奈さんの羽織ったトレンチコートの裾が膝を掠め、また元の位置へと戻る。
小さな手が腕に絡まってくる事はなく、彼女の靴音と俺の鼓動だけが沈黙のリズムを刻んでいく。
歩道橋を上がると墓地のような団地の向こう側にマンションの灯りが見える。
繋いだ手を緩めても、彼女の手はずっとここにあって指先だけが冷たかった。
確かな感触がもっと欲しい。
俺はその手を引き寄せて、その甲にキスをした。
「恥ずかしいわ」
「すみません」
歩くのをやめ、今度は彼女の目を見てもう一度唇と頬を押し付けた。
あなたに触れていたい。
薄闇で光る彼女の瞳に困惑の色が浮かぶ。
「た、拓也さん、もうここでいいわ……」
指先までを唇と舌でなぞった。
「拓……」
指先をそっと甘咬みして口に含んだ時、彼女の目から涙がポロンと零れた。
「あ、あの人と……、稔さんと同じ事しないで…」