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可奈さん
第14章 可奈さん
ドアを閉じ、瞳さんと会釈を交わしたその男は、慣れた様子で運転席に乗り込んだ。

スマートなその身のこなしは若者のそれではなく、経験を重ねて得た落ち着きと、自信が垣間見える。

俺には手が出せない高級車が、似合いの2人を乗せて走り去った。


「………」


店内の照明が次々と消され、ショーウィンドウにだけ明かりが残されていた。

気取ったマネキンの目には、今何が映っているんだろう。

マヌケ面の俺?

……あ、そうか、家まで送ってもらったのか。


俺は気を取り直してメットを被り、可奈さんちに向かった。

あのエントンスのチャイムを鳴らして、声を聞くだけでもいい。顔を見られるならもっといいけど。

「寒かったでしょう?お茶でもどうぞ」って、言ってくれるかも知れないし。

俺は良い事だけに思いを巡らせた。

ストーリーはすぐに出来上がり、俺の一方的な誤解がとけた後、あの部屋で彼女と熱く燃え上がるという結末まで考えた。

でも胸が痛い。

頼むよ、頼む……


神を信じない俺が何かにそう願い、雨粒を落とし始めた空を見上げて舌打ちをする。



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