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可奈さん
第14章 可奈さん
雨は止まない。

エントンスのチャイムに応答がないのは、まだ帰宅してないんだろう。
俺がどこかで追い抜いたか、違う道を使ったのかもしれない。

団地の駐車場の隅っこにバイクを止め、7号棟の階段を上った。踊り場から見える可奈さんの部屋が真っ暗だから、俺の予想は間違ってない。

あのベランダから通りを覗く必要がなくなってから、彼女は少しは前に進めただろうか。
ヤツの妻に言われた通りに、全部忘れてしまえただろうか。

結局俺は近づく事に成功しただけで、アイツを越えられない。

あの雨の日。
濡れねずみの可奈さんに傘を差し掛けた時から、俺は前に進み始めた。

これからだろ?

ようやく始まるんだろ?

そうだよね?

あなたをヤツの呪縛から解き放って、いつでも笑っていられるようにするから。

だから待って

待ってくれ……


小雨から土砂降りに変わった雨が、風に飛ばされて俺を叩く。

列をなして走っていた車の影も、歩く人影もなくなったのに、信号は点滅し、横断注意を呼びかけている。


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