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可奈さん
第14章 可奈さん
携帯を握りしめ、電話をかけるか、メールにするかと考える。

いや、もう帰ってくる。きっと今、1つ向こうの交差点で信号に引っかかってるんだ。だからあと2、3分で目の前に……

雨を踏むタイヤの波音がする度に身を乗り出し、空振りに終わったらまた交差点からやりなおす。

コンビニに立ち寄っているのかもしれない。いや、レストランで食事をしているのかも。まてよ、車が故障して……俺はあらゆる状況を作り出し、自分が納得するための言い訳を探した。

ただ、ある可能性だけは、何度も頭から追い出した。
シミュレーションのネタは尽きていく。時間の流れには歯止めがかけられず、あってはならない可能性だけが、色濃く姿を現し始める。


「くそっ」


時間を確かめるのが嫌になった。
コンクリートの壁にもたれて俯くと、毛先から落ちた雨の雫が、ぽとりぽとりとスニーカーに染み込んでいった。

風が弱くなった。

雨は霧雨に変わった。

点滅する信号が赤に変わった時、横断歩道を横切って、白い車が停車した。
あの黒い高級車が止まっていたその場所に。





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