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可奈さん
第14章 可奈さん
「なにか」


そいつは立ち止まり、隙のない視線で俺を牽制する。
肌つやの良い精悍な顔つきは、52の親父より若い、40代半ばに見えた。

俺を値踏みするように、視線がゆっくりと縦に移動する。その落ち着いたふてぶてしさが、死んだアイツを思い出させ、まだ息を切らせている俺を苛立たせた。


「あなたは可奈さんの何なんですか?」


唐突な質問に、やつはほんの少し眉を上げた。


「……キミは、彼女の何なんだ」


ずぶ濡れの俺を訝しげに見るのは、当然といえば当然だった。


「俺は、可奈さんと、付き合っています」

「ん?……それはおかしいね」

「何もおかしくないですよ」


子供じみた嘘と居直り。


「彼女と約束でも?」

「え?」

「将来の」

「……」


これからだ。
なにもかもこれから……

邪魔するな。


「井口拓也……、キミだね」

「っ…」


やつは落ち着き払って俺の名前を口にした。


「キミの事は可奈に聞いてる」


可奈……
またお前も呼び捨てか。

いったい俺の何を知ったつもりでいるんだ。




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