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可奈さん
第14章 可奈さん
「はっ、何を言ってるんですか、そんな訳ないでしょう。だいたいなぜイチイチあなたにそんな事を……」

「彼女は初めてだったよ」

「………」


長い沈黙が続いた。

こんなに理解に苦しむ日本語は初めてだ。

ヤツは真面目な顔をしていたし、馬鹿にしたり、勝ち誇っているわけでもなかった。

それまでの怒りや苛立ちが、銀色の重い球になって、空っぽな俺の頭の中をぐるぐると回り続けた。


「心臓を悪くしたせいか、……彼は不能だったんだ」


俺は笑いを堪えた。


「そ、そんなわけないでしょう。アイツは俺に言ったんですよ、……自信たっぷりに……」


──君にはまだ早い

──可奈には私しか見えてないんでね


「何を言われたか知らないけど……それは、君の若さへの、嫉妬かもしれないね」


嫉妬?

アイツが俺に嫉妬?


「か、彼女は、長谷川さんが初めての人だって…」


アイツの名前を初めて口にした。


「可奈にとっては、心から愛した初めての男だったし、大人の男からしたら、そんな一途な女性を喜ばせる方法は、いくらでも知っていただろうからね」




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