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可奈さん
第14章 可奈さん
もう、俺の許容範囲を越えていた。理解できない事が、世の中にはたくさんある、と言うことだけは理解できた。

怒りの矛先を完全に見失い、今座り込めば、二度と立ち上がれないような、やるせない、情けない気持ちだった。



俺と肌を重ねたあの夜は、もしかしたら、彼女にとって本当の初めてを、経験する日だったのかもしれない。

彼女は、1度は受け入れようとして、2度目は怖くなったんだろうか。
アイツとしてきた同じ事を、俺に望んだんだろうか。

俺は頭の中で、必死にあの時を再生しようとした。

でも、もうその熱い時間は、二度と来ない。



「今日、彼女の頼みでドライブに行ったよ」

「よかったですね」


そんな話はどうでもいい。


「湘南を見たいって言うんでね」

「えっ?」

「人生で一番美しい景色を、キミと見たって言ってたよ」

「………」

「次にいつ見ようが、もう同じ景色を見る事は出来ないとも言っていた」


あの時彼女は、写真を撮らなかった。


──いいの、残しておかなくても忘れないから




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