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可奈さん
第14章 可奈さん
俺の目にも高級だとわかる腕時計に目をやり、ヤツは「そろそろ失礼するよ」とこっちを見た。


「キミ、可奈に会っていくといい。最後になるだろうからね」


そして、俺の返事も聞かずにインターホンで彼女の部屋を呼び出した。


『はい』

「可奈、私だ」

『貴之さん?……どうしたんですか』

「彼が来てる」

『え?』

「ゆっくり話すといい」

『あの…』

「ここを開けてやって」

『あ、はい、でも…』

「私は帰るよ、いいね」

『……はい』

「おやすみ」

『おやすみなさい』


ドアが開き、ヤツに背中を押された。

囚人が一時の面会を許されて、でも看守には見張られている。
そんな気分の俺。


「キミとはここでさよならだね」


ヤツは全ての段取りを済ませ、満足そうに出て行った。


今の2人の会話で充分だ。

彼女は、俺の知らない女になっていた。

ヤツは赤子の手を捻るように、俺を黙らせ、項垂れさせた。

俺はもう、これから先の事を夢見たり、悩んだりする必要がなくなった。



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