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可奈さん
第14章 可奈さん
交差した長い横断歩道を、必死で駆けてく女の人がいた。

クリーニング店からたった今引き取ってきたばかりのような、袋入りの、大量の洋服を両手に抱えていた。

ずり落ちてきた服を落とすまいと、時折体勢を変え、しっかり押さえながら走る。

ハイヒールのその人がコケそうになると「アッ」と小さなどよめきが起こった。

信号は赤になってしまった。

でもまだたどり着かない。

ようやく半分を過ぎた。

彼女は焦ってよろけながら走る。

車も人も、彼女が渡り切るのを待った。

写真みたいに時間が止まり、喧騒が静寂に変わる中、彼女だけが動いていた。

ようやく向こう岸にたどり着いた彼女は、くるりと反転した。

肩で息をしていた。

交差点に向かい、泣きそうな声で「ごめんなさーい」と叫び、深々と頭を下げた。

パチパチと拍手が鳴った。
「良かったー」
あちこちで声がした。

再び時間が流れ出し、目の前を車が行き交う。

不意に風が強く吹き、止まった俺の時間が進み始めた。

彼女の姿は、雑踏の中に消えていった。



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