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可奈さん
第1章 窓辺の彼女
団地まで20分。
蒸せかえる空気が身体にまとわりついて、Tシャツの背中を汗がつたう。


イラつく信号待ちを青で駆け出すと、左折してきた車が危ういところでブレーキを踏んだ。


「……」


運転席を睨み付けてからゆっくりと道を渡る。

携帯見てんじゃねえよ
まったく…




階段を2段とばしで上がった歩道橋からの見慣れた景色。俺はさっきのムカつく運転手の事を忘れた。

薄く横に伸びた直方体が縦にいくつも並び、巨人に蹴られたらドミノ倒しのように次々とコケるに違いないと思っていた白い団地も、今では無惨に傷んで黒ずみ、俺の足でも崩せそうな廃墟に見える。

新しいマンションが近くに建ってからは尚更、その古さと暗さに磨きがかかった。


7号棟の階段を駆け上りながら、なんで5階建てなのにエレベーターがないのかと、ばあちゃんの為に怒りが湧いてくる。

4階を過ぎ、形ばかりの踊り場から狭い空を眺めた。



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