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可奈さん
第5章 来訪者
お茶を飲み干して一息ついた彼女がぽつりと呟いた。


「ありがとう」

「えっ?」

「……傘を、差しかけてくれて」


シャツの背中に氷を入れられた時みたいに、ヒヤリとして呼吸が止まった。


「ずぶ濡れで座り込んでるおかしな女になんて関わりたくない筈なのに」


「おかしな女なんかじゃないです。…俺はただ、見ていられなかっただけで」

「…何を?」


え…


「いや、その…何も見てません、ホントです」


俺のばか


「……、封筒を拾ってくれたでしょう?…あの中身、お金だったの」

「……」

「あれを受け取ったら、何もなかった事になってしまうから、突き返したかった」


やっぱアレは本妻か


「でも…みんなバレてたの。ずっと前から。
……ほんと、ここに越してくる前から」

「え…」


顔を上げた俺に「ごめんなさい、あなたにこんな話…」と微笑みキッチンへ入っていく彼女。




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