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可奈さん
第5章 来訪者
そこまでの話は、過去を冷静に振り返っている話し振りだった。

アイツが死んだ時に、涙は全部流してしまったわ、とでもいうように。


「あの日奥様は、いつも稔さんが使っていた車でここに来たの」


可奈さんは初めて肩を震わせた。手の中の湯呑みを握り締め、さっきより落ち着いた声で話そうと無理をしていた。


「突然で驚いたんだけど、私が居る事は承知していたみたい…あなたが座っている席に座って、お茶も飲まずにこの部屋を見渡したわ」


俺もさっき見渡した。


「夫を、返していただきます。もう充分でしょう?…亡くなりましたし、って言われたの」

「っ…」


それはつまり、修羅場ってやつの始まりですか?



「信頼していた2人に裏切られるとは思っていませんでしたけど、仕方がないとも思いました。
あぁ、長谷川の運転手は、わたくしの遠縁の者なんですよ、長谷川は最後まで、知りませんでしたけどね…、って」




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