この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
可奈さん
第5章 来訪者

テーブルに戻った可奈さんは一気に話しだした。
「奥様の言葉よ。
長谷川が入院してから…、あなたを幸せな女でいさせてあげていた5年の間に、わたくしが向き合ってきたものは、自分の中の醜さでした。
嫉妬、妬み、後悔、憎悪、嫌悪、飢餓感……いくら逃れようとしても追いかけてきて、汚い泥の沼に引き込まれてしまうんです。
わたくしは自分の躰を恨み、若くて美しいあなたを恨み、夫を恨んだ。…そう、逐一報告するようにと頼んでいた運転手の中井さんまでも。
ですから、長谷川が亡くなった今、あなたから全てを返して頂きに参りました、長谷川を、思い出して頂きたくもないという事です。
夜中に帰宅して、寝たふりをしているわたくしの寝間着の上から、なにもないこの胸と、額にキスをして隣で眠る長谷川だけが本当の彼なんですから…。
これはわたくしが5年間貯め続けたお金です。嫌でも受け取って頂きます。あなたにはその義務があるはずです。
綺麗で一点の曇りもない思い出として、心に遺しておけるとでも思っていたのですか?
あなたの記憶にあるもの、わたくしの苦しみの上にあった幸せの全てを忘れて頂きます……。
そして奥様は出ていかれた」
「奥様の言葉よ。
長谷川が入院してから…、あなたを幸せな女でいさせてあげていた5年の間に、わたくしが向き合ってきたものは、自分の中の醜さでした。
嫉妬、妬み、後悔、憎悪、嫌悪、飢餓感……いくら逃れようとしても追いかけてきて、汚い泥の沼に引き込まれてしまうんです。
わたくしは自分の躰を恨み、若くて美しいあなたを恨み、夫を恨んだ。…そう、逐一報告するようにと頼んでいた運転手の中井さんまでも。
ですから、長谷川が亡くなった今、あなたから全てを返して頂きに参りました、長谷川を、思い出して頂きたくもないという事です。
夜中に帰宅して、寝たふりをしているわたくしの寝間着の上から、なにもないこの胸と、額にキスをして隣で眠る長谷川だけが本当の彼なんですから…。
これはわたくしが5年間貯め続けたお金です。嫌でも受け取って頂きます。あなたにはその義務があるはずです。
綺麗で一点の曇りもない思い出として、心に遺しておけるとでも思っていたのですか?
あなたの記憶にあるもの、わたくしの苦しみの上にあった幸せの全てを忘れて頂きます……。
そして奥様は出ていかれた」

