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可奈さん
第6章 風
「いえ、あの、もう一回聴きたいです」

「じゃあ一緒に歌ってよ」

「えーっ、よく知らないんです」

「じゃあ覚えなさい」

「………」

「いくわよー。通り過ぎるー夏のーかぜーにー肌のほてりーがにーじーむー、はい次っ」

「波が消す足あとーのーようにー君を忘れられたーなーらー…」


その後も可奈さんは歌い続けた。
バイクの音に負けないよう、がんばって歌っていた。

そんなぶっきらぼうな歌声がなぜか胸にしみてくる。

アイツを想って歌ってるんだ

クソッ…


スピードを上げた俺に可奈さんがしがみついた。


「可奈さん、あんなヤツ、忘れちまえっ…」


風の中で声が震えた。


「そうしたい、そうしたいよ…」


俺はうろ覚えのその歌をテキトーに歌った。


「アハハ、拓也さんもヘタ、一緒に歌ってあげるね、そこ間違ってるわよ」


ラストだけに自信がある俺は「行き場のない愛を持てあまーしー背を向けた夏の名をよーぶー」のあと、"可奈"と小さく付け足した。



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