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Could you walk on the water ?
第19章 変貌
「早速ですが、社長、インタビューを始めてよろしいでしょうか?」
堀内工務店の社長室に招かれた若い女性記者は、緊張を隠せない様子でいた。
25歳になったばかりの彼女にとって、今日の取材は初めての大仕事だった。
経済紙の地方記者ではあるが、この記事は全国に広く報道される予定だ。
それは、読者の関心が高いせいでもあった。
窓の外では、晩夏の空の下、やかましくセミが鳴き続けている。
「突然の社長の死去から、早いもので2年半が経過しようとしています。前社長、堀内雄三氏のカリスマ的な力で成長を果たした貴社ですので、その先行きを危ぶむ声も少なくありませんでした」
「懸念の声が圧倒的に多かったというのが事実じゃないかしら」
「は、はい・・・・・・・」
目の前の美しい女性に対する憧憬の視線を隠そうともせず、記者は取材を続けた。
「しかし、現実はそうはなりませんでしたね」
「残念ながら、とでも言うべきかしら」
完璧な笑みを浮かべながら、社長はアイスティーを僅かに飲んだ。
「奥様であった社長、えっと、つまり堀内沙織様が」
「沙織さんでいいわ。社長っていう呼ばれ方は嫌いなの。社員にも皆、沙織という名前で呼ばせてるのよ」
「そうなんですか」
頬を僅かに染めながら、女性記者は机の上に置いたレコーダーの位置を神経質そうに少し動かし、質問を続けた。
「では、沙織さん・・・・・・、沙織さんが社長に就任されることに反対意見はなかったんでしょうか」
「勿論あったわよ。皆さんが私を推したなんて言うつもりはないわ。当然よね。企業経営の経験もなければ、業界のこともほとんど知らない。私は、彼の死去1ヵ月前にたまたま結婚したばかりの前妻、っていうだけなんですから」
「はあ・・・・」
「でもね、私はこの会社を他の人に渡したくはなかった」
「それは前社長が・・・・・・・」
「そうね・・・・・。彼が手塩にかけて育て上げてきた会社だったんです、堀内工務店は。この地方の発展だけを考え、愚直な人生を送ってきた彼の唯一、そして最大の財産がこの会社だったのよ」
その口調には、いささかのためらいも迷いもない。
堀内工務店の社長室に招かれた若い女性記者は、緊張を隠せない様子でいた。
25歳になったばかりの彼女にとって、今日の取材は初めての大仕事だった。
経済紙の地方記者ではあるが、この記事は全国に広く報道される予定だ。
それは、読者の関心が高いせいでもあった。
窓の外では、晩夏の空の下、やかましくセミが鳴き続けている。
「突然の社長の死去から、早いもので2年半が経過しようとしています。前社長、堀内雄三氏のカリスマ的な力で成長を果たした貴社ですので、その先行きを危ぶむ声も少なくありませんでした」
「懸念の声が圧倒的に多かったというのが事実じゃないかしら」
「は、はい・・・・・・・」
目の前の美しい女性に対する憧憬の視線を隠そうともせず、記者は取材を続けた。
「しかし、現実はそうはなりませんでしたね」
「残念ながら、とでも言うべきかしら」
完璧な笑みを浮かべながら、社長はアイスティーを僅かに飲んだ。
「奥様であった社長、えっと、つまり堀内沙織様が」
「沙織さんでいいわ。社長っていう呼ばれ方は嫌いなの。社員にも皆、沙織という名前で呼ばせてるのよ」
「そうなんですか」
頬を僅かに染めながら、女性記者は机の上に置いたレコーダーの位置を神経質そうに少し動かし、質問を続けた。
「では、沙織さん・・・・・・、沙織さんが社長に就任されることに反対意見はなかったんでしょうか」
「勿論あったわよ。皆さんが私を推したなんて言うつもりはないわ。当然よね。企業経営の経験もなければ、業界のこともほとんど知らない。私は、彼の死去1ヵ月前にたまたま結婚したばかりの前妻、っていうだけなんですから」
「はあ・・・・」
「でもね、私はこの会社を他の人に渡したくはなかった」
「それは前社長が・・・・・・・」
「そうね・・・・・。彼が手塩にかけて育て上げてきた会社だったんです、堀内工務店は。この地方の発展だけを考え、愚直な人生を送ってきた彼の唯一、そして最大の財産がこの会社だったのよ」
その口調には、いささかのためらいも迷いもない。