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Could you walk on the water ?
第19章 変貌
圧倒されるように見つめてくる女性記者を前に、堀内沙織は話を続けた。
「だから、法的に私が相続人となった以上、この会社だけは渡したくはなかった。他の財産は奪われてもよかったんですが」
「そうですか・・・・・」
「幸い、私の主旨に取締役会は賛成してくれたの。勿論、彼らの、いえ、全社員の貢献がなかったなら、ここまで順調に業績を伸ばすことはできなかったでしょう。私は自分だけの功績だなんて、これっぽちも思ってません」
いたずらっぽく微笑む沙織につられるように、女性記者もまた笑みを浮かべた。
「社長は、あっ、沙織さんはさきほど、全くこの業界のことをご存じなかったとおっしゃいましたが、それは本当なんでしょうか」
「若いころ、私は東京のあるメーカーに勤める平凡なOLでした」
「でも○○大学ご卒業でいらっしゃる」
「学歴なんて、社会に出た瞬間に意味がなくなるもの。あなたもそれぐらい、もうわかる年頃じゃないかしら」
「え、ええ・・・・・・・」
「ゼネコンのことなんか、さっぱりわからなかった。だから、一から勉強をしたわ。ただね、一つだけ、自信もあったのよ」
「それは何でしょうか」
「この町に来た私は、縁あって堀内と出会い、トンネル工事現場にある従業員寮で働くことになったの」
「トンネル工事っておっしゃいますと、まさか、ご主人が」
「ええ。そうね・・・・、彼が亡くなったあの現場にあった寮です・・・・・」
瞳を潤ませ、しばらくの沈黙を貫いた後、沙織の頬に一筋の涙が流れ落ちた。
記者の背後にいるカメラマンが、すかさずその表情を撮影した。
だが、沙織はそれをとがめることなく、取り出したハンカチで涙を拭った。
「社長・・・・・、あっ、沙織さん・・・・・、申し訳ございません、変なことを言ってしまって・・・・・・・」
「いいのよ、気にしなくて。それで・・・・・・・、何の話だったかしら」
「工事現場の寮で沙織さんが・・・・・・・・・・・・」
「そうね・・・・・・・・・・、その寮で、堀内と結婚するまで、働いたんです。そこで、実際に現場にいる労働者の皆様と接することができたのが、私にとって大きな財産となりました」
その社長の表情には、当時の記憶を想起している雰囲気が確かにあった。
「だから、法的に私が相続人となった以上、この会社だけは渡したくはなかった。他の財産は奪われてもよかったんですが」
「そうですか・・・・・」
「幸い、私の主旨に取締役会は賛成してくれたの。勿論、彼らの、いえ、全社員の貢献がなかったなら、ここまで順調に業績を伸ばすことはできなかったでしょう。私は自分だけの功績だなんて、これっぽちも思ってません」
いたずらっぽく微笑む沙織につられるように、女性記者もまた笑みを浮かべた。
「社長は、あっ、沙織さんはさきほど、全くこの業界のことをご存じなかったとおっしゃいましたが、それは本当なんでしょうか」
「若いころ、私は東京のあるメーカーに勤める平凡なOLでした」
「でも○○大学ご卒業でいらっしゃる」
「学歴なんて、社会に出た瞬間に意味がなくなるもの。あなたもそれぐらい、もうわかる年頃じゃないかしら」
「え、ええ・・・・・・・」
「ゼネコンのことなんか、さっぱりわからなかった。だから、一から勉強をしたわ。ただね、一つだけ、自信もあったのよ」
「それは何でしょうか」
「この町に来た私は、縁あって堀内と出会い、トンネル工事現場にある従業員寮で働くことになったの」
「トンネル工事っておっしゃいますと、まさか、ご主人が」
「ええ。そうね・・・・、彼が亡くなったあの現場にあった寮です・・・・・」
瞳を潤ませ、しばらくの沈黙を貫いた後、沙織の頬に一筋の涙が流れ落ちた。
記者の背後にいるカメラマンが、すかさずその表情を撮影した。
だが、沙織はそれをとがめることなく、取り出したハンカチで涙を拭った。
「社長・・・・・、あっ、沙織さん・・・・・、申し訳ございません、変なことを言ってしまって・・・・・・・」
「いいのよ、気にしなくて。それで・・・・・・・、何の話だったかしら」
「工事現場の寮で沙織さんが・・・・・・・・・・・・」
「そうね・・・・・・・・・・、その寮で、堀内と結婚するまで、働いたんです。そこで、実際に現場にいる労働者の皆様と接することができたのが、私にとって大きな財産となりました」
その社長の表情には、当時の記憶を想起している雰囲気が確かにあった。