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Could you walk on the water ?
第19章 変貌
「現場で働く作業員の皆さんとの出会いで、沙織さんは何を学ばれたんでしょう」

「彼らが何を感じ、どんな苦労をして、日々働いているのか。毎日、労働に疲れた夜には、何を求めるのか。どんなことに喜んで、どんな会社ならその勤労意欲を向上させてくれるのか。そんなことを、たくさん学ぶことができました。何といっても、この業界は彼らが支えているんですからね。そんな当たり前の事実を知らない経営者の皆様も、たくさんいるんじゃないかしら」

「寮では他には何か?」

「我々のような会社には監督官庁があって、許可をもらわない限り何もできないっていう、そんな現実も勉強したわ」

「失礼ですが、この業界では様々な賄賂、談合の噂が絶えませんが」

「弊社は不正なことは一切行っていないと、社長である私がこの場を借りて、強く宣言させてもらいます」

取材は長時間続けられた。

堀内工務店の歴史、業容、経営状況、今年の業績見込み、社員の採用計画等の話が延々と続けられた後、取材の最後は沙織自身に対する質問がメインとなった。

「亡くなった堀内前社長は、一代で稼ぎあげた莫大な財産をお持ちでした。その遺産を相続したことに加え、奥様を受取人としてかけられていた高額な保険金も話題になりました」

「随分マスコミを騒がせたわね。私が彼を殺害したんじゃないかって」

「率直に、その時のお気持ちはいかがでしたか」

「それはもう、悔しさしかありませんでした」

「悔しさ?」

「現実を誤解されることほど、悔しいことはないの。私は、あのとき初めてそれを知ったわ。だから、時が過ぎ去るのを待った。この会社の仕事に専念しながら」

「ご主人を殺害した犯人に対しておっしゃりたいことは」

「そうね・・・・。早く自首してください、としか言えないわ・・・・・。勿論、主人を殺した理由も聞きたいですが・・・・・」

「すみません、また妙な質問をして。では、少し話題を変えます・・・・・、今や、沙織さんはこの界隈随一の資産家としても注目されていますが」

「その話題はあまりしたくないわね」

氷が解けたアイスティーを僅かに飲み、沙織は窓の外の光景を見つめた。
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