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Could you walk on the water ?
第19章 変貌
橋口玲佳が、経済紙のあるページのコピーを持って、彼のもとを訪問したのはそれが記事になった1ヵ月後のことだった。

玲佳の表情は、限界にまで深刻だった。

記事コピー以外に、彼女はもう一つのもの持参していた。

小さなUSBメモリーだ。

面会に来た玲佳の表情を見た瞬間、相本大介は全てを理解した。

勿論、この場所でUSBメモリーの中身を確認することはできない。

しかし、大介は全てを精密なまでに想像し、玲佳の表情からそれが現実であると確信した。

「その記事はここでも見たよ、玲佳ちゃん」

「そうですか・・・・」

「それよりも、以前頼んだ件、遂に手に入ったんだね・・・・・」

玲佳は小さくうなずいた。

「すみません、店長。こんなに時間がかかってしまって・・・・」

「3年かけてついに・・・・・。玲佳ちゃん、苦労かけたね・・・・・・」

「それよりも店長、この中身は・・・・・・・・」

困惑の表情を濃くした玲佳は、いつになく綺麗に見えた。

彼女も既に成熟した女性なのだ。

大介はそんなことを考えながら、やさしく答えた。

「いいんだ。聞かなくたって想像はつく」

「店長・・・・・・」

そして、大介は一転して深刻な表情を浮かべ、玲佳に更なる指示を出した。

「何も考えなくていい。それを警察に届けなさい、玲佳ちゃん」

「店長、でもそんなことをしたら、店長だって・・・・・・・・・」

「俺のことはいい。いいかい、玲佳ちゃん。早くするんだ。それを持っていることがわかったら、玲佳ちゃんの身に危険が及ぶかもしれない。いいかい、約束だよ」

はっきりとうなずくと、玲佳は立ち上がった。

だが、大介が何かを思い出したように、彼女に最後の伝言を与えた。

「玲佳ちゃん、もしも本人に会う機会があったなら、こう伝えてくれないか」

「店長・・・・」

「『水の上なんて歩けやしないんだ』って」

玲佳は、その日初めて彼女らしい笑みを見せ、「わかりました、店長」と、はっきり答えた。

玲佳は足早にそこを立ち去った。

大介が故郷に戻ってから5度目の冬が、すぐそこに迫っていた。
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