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Could you walk on the water ?
第2章 都落ち
「そうそう。堀内雄三。ほら、札付きのワルだったあいつだよ」

「堀内がどうかしたのかい? あいつの家は確か・・・・・・」

「零細工務店だったことは覚えているよね」

「そうだったな。自宅だけでやってるような規模だったけど」

大介は、懐かしそうに少年時代のことを思い出した。

同学年の堀内とは小学、中学と共に過ごした。

成績優秀な部類にいた大介と異なり、堀内は対極に属するタイプだった。

大介に激しい劣等感を覚えていた彼は、少年時代には様々ないやがらせ、トラブルを起こしたものだ。

「兄さん、驚くなよ。堀内さんなあ。いまやこの辺の主といってもいいんだぜ」

「主?」

弟の言葉の意味を、大介にはすぐに理解することができなかった。

成績劣悪で札付きの不良だった男が主。

悪い組織にでも入ったというのだろうか。

「彼は意外に商才があったんだ。工務店を継いで瞬く間に事業拡大したよ」

「・・・・・・」

「ちょうどこの近辺の再開発計画もあってね、それを彼が一手に引き受けたのさ」

ビールをごくりと飲みながら、剛は話を続けた。

「大手ゼネコンとコネクションがあったのかもしれない。開発が進むにつれて、堀内さんの会社も巨大化した。今や、従業員は100人を超す大会社の社長だよ」

弟の言葉に、大介は沈黙するしかなかった。

「ちょうど今、また大きなプロジェクトが進んでいるんだ。川内渓谷の奥にトンネルを作るっていう工事、知ってるかい?」

「川内渓谷? あんな奥にトンネルか」

「反対側の町と直通させるのさ。この工事も堀内さんが大手と組んで進めている。工事現場に大きなプレハブ小屋を建ててね。数十人の労働者がそこで暮らしているよ。ほとんどこの仕事のために外からやってきた労働者ばかりだけどな」

それほどのプロジェクトが進行すれば、過疎が進行するこのエリアには、様々な恩恵をもたらすはずだった。

「この辺りでは、今や堀内さんはちょっとした名士だよ。人生わからないよな」

「・・・・・・」

「それに、彼はいまだ独身だ。金にものを言わせて、好きに遊びまわっているという噂だ」

弟の何気ない言葉が、大介の心の奥の傷を、確かに刺激した。
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