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Could you walk on the water ?
第4章 接近
「兄さん、それで、どうなんだい、店のほうは」

相本大介が故郷に戻り、1年が経過しようとしていた。

44歳になった大介が地元でささやかなカフェをオープンし、ちょうど半年になる。

季節は巡り、山々は春の装いを徐々に脱ぎ捨て、再び新緑で染まりつつある。

確実なサイクルを刻む自然の姿が、大介にはどこかうらやましかった。

「正直、簡単じゃないな」

周囲が寝静まった夜、大介は弟の剛と共に、自宅で静かに会話を交わしていた。

妻、沙織は既に眠りに就いている。

「資金繰りのほうは大丈夫なのかい?」

「まだしばらくはいけそうだ。退職金やら解雇手当、いろいろもらったからな」

「しかし、金なんてなくなるのはあっと言うまだ。1千万なんて信じられないくらい、早く尽きちまう」

「そんなことは俺だってわかってる」

不満げな様子でビールを流し込む兄の姿に、剛は心配そうに続けた。

「姉さんは大丈夫なのかい?」

「沙織がどうかしたっていうのか」

「ずっと自宅に居続けているだろう。何かと俺も気を使うからな」

自宅を事務所としている剛にとって、兄夫婦は同じ2世帯住宅に住む隣人だ。

ふだんから自宅にいる兄嫁のことが、弟には気になるようだった。

「剛、たまには沙織の相手でもしてやってくれよ」

「あのな、兄さん、俺だって暇じゃないんだぜ」

「それもそうだな」

しばらくの沈黙が漂った。

四国の山間部。

引きずり込まれるほどの深い闇に似た、濃厚な静寂が支配している。

だが、それを打ち破るように、どこからともなく音が聞こえてきた。

バリバリバリ・・・・・・

激しいエンジン音だ。

「また来やがったな」   

剛が吐き捨てるようにつぶやき、家の外の闇を見つめた。
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