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Could you walk on the water ?
第18章 喪服未亡人
「主人に恨みというのなら、私の前の夫ということになるはずですわ」

昨日、堀内沙織は隠すこともなく広瀬にそう告白した。

この辺境に自分がやってきたきっかけ、堀内との出会い、夫の精神的破綻、放火未遂、そして収監。

更にはそこに端を達した夫との離婚から堀内との電撃的な再婚まで。

未亡人は、刑事にここまでの経緯を淡々と説明した。

「確かにご主人には強い動機がありそうですが」

「ええ。しかし、彼は刑務所の中です。勿論、彼に指示された外の誰か、例えば私が協力して堀内を殺すことだって不可能ではないですが」

「前のご主人と奥様、こちらの町に住む弟さん、それに他の全ての外部の方との面会、手紙の記録は全て確認しました。そこには何の不審もない、との報告があがっています」

「そうですか」

沙織は小さな息を吐き、刑事の顔を見つめた。

通夜、そして葬儀が行われる寺の一角になる小さな畳敷きの部屋で、2人の面会は行われた。

「奥様、失礼ですが、前のご主人とはなぜ離婚されたんですか。とても仲のいいご夫婦だったと、東京からもレポートが届いていますが」

「前の主人の強い意志なんです」

「ご主人の、ですか?」

「ええ」

テーブルに置かれたお茶を飲みながら、未亡人は話を続けた。

彼女は既に、美しい喪服姿でその肢体を包んでいる。

「前科者になった自分と結婚していても、お前に迷惑がかかるだけだ、と。幸い、子供もいませんし、今なら他にいい縁談が見つかるはずだ、という、強い主人の希望があったものですから」

「奥様はよく合意されましたね」

「どこかで私も疲れていたんです。慣れぬ町に来て、いろいろな経験を強いられましたから。そこで、主人の弟とも相談し、ここで終わりにしよう、という決心に至りました」

「それで堀内さんとの再婚を?」

未亡人の表情の動きを、広瀬は注意深く見つめた。

「ええ」

美しく整った堀内沙織の顔には、さざ波一つ、生じることはなかった。
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