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誘淫接続
第2章 第十の接続

(3)

 夜の駅で、ゆるい涼風を浴びながら麻琴はベンチに座っていた。
 土で汚れた仕事用の服装から、いつものグレーのカットソーとカーディガン、黒のスカートに着替えている。
 ただし、いくら『外づら』を変えても、貞操帯を外すことは、できない。
 仕事中からずっと続いている身体のほてりは収まらない。

 早く帰りたいのに、結局今日もあれから続いた翠の失敗のおかげで、やろうと思っていた事務処理は後回しになり、予定よりも二時間も遅れての帰宅になった。
 まだ、なんとか普通をよそおって歩くことができるが、息の荒さはもう抑えられないところまで来ている。
 乗るはずの電車も、ベンチに座ったままもう二本も見送った。

 トイレではいくら卑猥な『踊り』を続けても、かえって身体がたかぶるばかりで、絶頂することはどうしてもできなかった。
 苦しい。

 時々、前かがみの麻琴をちらと見る電車待ちの人々も、貧血か、少し飲み過ぎたくらいにしか思っていないのだろう。誰も声を掛けてこない。

 こういう『都会の無関心』は今はありがたいが、それでも二十代の女がひとり具合悪そうにしているのに、男性から一切声が掛けられないことがどこか悔しかった。
 貞操帯のことが知られてもいいから、このまま誰か『お持ち帰り』してくれないだろうか……とさえ思ってしまう。

 ――どうせ地味でお堅くて魅力のない女ですよ……
 ――それに変態だし……
 誰でもいいから、格好いい男性が優しく声を掛けてくれないものだろうか。
 そんなにも、自分には魅力がないのだろうか。
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