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誘淫接続
第4章 切断
 ――迫られてもダメなものはダメ。
 ――だいたいそんな風に迫られるなんて、あるわけないし。
 ちょっと誘いの言葉を掛けられたからって、調子に乗っているのではないだろうか。
 それもデートの誘いかどうかも分からないような話なのだ。
 いや、あれから何も言ってこないのだから、隆一はすっかり忘れているのかも知れない。
 ――……
 ――ああもう! ほんとイヤになるな、こんな性格……

 麻琴はビルに戻り、エレベーターを使わずいつも通り階段で教室のある三階へと登った。
 ビルと言っても一フロアに一室しかない小ぶりな建物だ。事務室はフロアの一室をパーティションで区切っているだけである。
 階段を登ると扉もなくすぐ廊下に繋がっていて、一方はエレベーターを挟んで教室の入口、反対の方へ行くとトイレになっている。

 麻琴は三階まで階段を登った時、ふと足を止めた。
 トイレの前にスーツを着た隆一の姿を見たからだ。
 ――え……?
 今は午前の部と午後の部の合間で、受講生がやってくる時間ではない。そもそも今日は隆一が通ってくる土曜ではない。平日だ。普通なら会社に出勤しているはずだ。

 麻琴はとっさに満腹のお腹を両手で隠すように押さえたが、すぐにその手を下ろした。
 隆一は立ち話をしていた。
 そしてその相手が――翠なのだ。
 翠は相変わらずおどおどした様子だが、隆一は――
 笑っていた。
 それも、楽しげに。

 トイレまではさほど距離があるわけではないので、麻琴は隆一がすぐにこっちに気づくものだと思って、会釈するつもりでいた。
 しかし、全く麻琴に気づくような気配すらなく笑いながら翠を見て話している。
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