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誘淫接続
第5章 接近
5.接近


(1)

 トイレの鏡で、麻琴は自分の顔を見ていた。
 明らかに、紅い。
 その上、目の下にくままで作っている。
 普段、一晩眠らないくらいで簡単にくまなどできることなどないのだが、燃やし尽くしたくてもそれが叶わない情欲を抑え続けていたためかも知れない。
 くまがあるために紅みを帯びた麻琴の顔は、はた目には具合悪そうにしか見えない。

 もちろん、本当は違う。
 もうやめようと思っていたのに。
 いや、もう終わったと思っていたのに。
 やめようと思えば今でもやめられるのに。
 また、こうして貞操帯をつけたまま教室で仕事している。
 いなくなったと思っていた『ご主人様』の言われるままに――。

 麻琴は、かすかに荒くなっている息を押さえるように思い切り深呼吸した。
 ――もう……どう思われてもいい……
 ――止められない……
 ――どうせ、ばれないんだし……

 麻琴はハンカチタオルを出そうと、仕事用のジーンズのポケットを探った。
 が、どのポケットにもハンカチタオルが入っていない。事務室に置いてきてしまったのか。
 エプロンの前に付いているポケットにも手を入れた時、麻琴の指が小さな紙片に触れた。
 麻琴は二つ折りになっているその紙片を取り出して開いた。


  月曜お時間いただけませんか?
  有給取ってます。
  前に言った場所にご一緒して欲しいんです。
  メールください。
               東


 その文面の最後に、メールアドレスが一緒に書かれている。
 ボールペンのきれいな字だ。
 いつの間に、隆一はこれをポケットに入れたのだろう。
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