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誘淫接続
第5章 接近
 麻琴はなんとかすました表情を保ったまま答えた。
 「何かって何ですか?」
 「……前にも一度あったよねえ……顔赤くしてたことがさあ……」
 「それが?」
 「よく風邪引くよね、水野さん」
 「風邪じゃありません」
 「ふうん……」
 「何でしょう?」
 「そっかあ、てっきりね、僕はまた水野さんが風邪引いちゃったのかと心底心配しちゃってたんだよお。ひどい顔してるよ? くままで作っちゃってさあ……」

 松戸は麻琴の肩に手を置いた。
 スウエット生地を通して、松戸の手の粘っこい熱が伝わってきて気持ちが悪い。ねっとりした汗までもが通り抜けてきそうだ。

 「何でもないならさあ、もっと笑顔とかできないの? ホントはそのメガネも変えるかコンタクトにした方がいいと僕は思うけどさあ、せめて笑顔の方がいいよお?」
 「いつもこうなので」
 麻琴はだんだんと腹立たしさが抑えられなくなってきた。無意識に突き放すような口調になる。

 「笑顔ってのはねぇ……男女関係ないんだよお。誰だって険しい顔のヤツより、笑顔のヤツの方に親しみ持つもんでさあ……特に女性は笑顔の方が絶対イイ」
 「松戸さん、何の話なさってるんです?」
 「そんなだから恋人できねえんだよなあ」
 麻琴は思わず松戸をにらんだ。
 「ほらほら怖い顔じゃなくて、言ってるでしょお、笑顔。分かる? 笑う顔と書いて笑顔。できないのお?」

 松戸はいつもよりしつこく絡んでくる。麻琴のいら立ちは募るばかりだった。
 しかし相手は一応受講生である。つまりは教室にとって『お客様』なのだ。
 麻琴は笑顔を作ってみせた。
 とはいえ無理矢理作った笑顔だ。どこか引きつっている。
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