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甘やかな縄
第1章 知ってしまった
 思わず、周りを確かめている自分をおかしく思いながら、もう一度コメントをチェックしていた。


(どうしよう、でも、少し興味引かれるし、ちょっとくらいいいわよ、ね。)


 自分自身を納得させるように、目をつぶり深呼吸をした。


「はい、何をしてくれるんでしょう。
放置されたままでは、寂しすぎます。」


 と、コメントを返した。
 携帯を置き朝の家事を始めた。
 掃除も終わり、もう一度例のサイトを開いた。
 そして、


「う〜ん、ずいぶん具体的なのが欲しいんだねぇ。
まあ、その時次第だけどバイブレーターを使うかなぁ。
でも、これ以上は公開調教みたいになっちゃうからねぇ。
どうするかなぁ。
直接メールができれば、いいんだけど?
無理だよねぇ。」


(えっ、うそ、バイブレーターって、でも、どんなんだろう。)


 美由紀は自分が深みにはまろうとしていると、わかってはいた。
 直接メールという言葉に危険を感じ、少し返事をためらった。
 ただ、心の中で別の何かが蠢き(うごめき)はじめているのを感じていた。
 洗濯物を干しながら、美由紀はまだ迷っていた。


 美由紀のコメントを間六郎は、驚きながら見ていた。
 長いSMの経験を重ねてきた彼が初めて書いたSM小説の読者からのコメントだった。
 しかも、彼は最後の奴隷と別れてから十年がたち、そろそろ引退するつもりで書いた小説だった。


(返事がくるかなぁ?まあ、来なくても仕方ないわな。でも、ないとは思うけど、ひょっとして返事がきたら、良いんだけどなぁ。)


 間(はざま)六郎(ろくろう)は、ハンドルネーム「夢」という女性からの返事を、半ば楽しみにして待っていた。


 洗濯物を干し終わり美由紀は落ち着くつもりで、お茶を立てることにした。
 一人、お茶をたてゆっくりと心を落ち着けるつもりだったが、


(やだ、お茶の味が変だわ。なんだか、荒れてる。なんで?)


 美由紀には原因がわかっていた。
 思わず、唇を噛み締め携帯を握った。
 同時に着信音が鳴った。
 夫の和樹からだった。


「もしもし、美由紀。伝言見てくれたかな。」


「えぇ、読みました。今夜は、お泊りですか?」


「うん、悪いな。それと、明後日から出張だから、じゃ。」


 美由紀の返事を待たずに、プツッと切れた。
 彼女の中でブツッと音がした。
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