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short story
第19章 夏の欠片
「あっけなかったよ」
皆が帰り親族ばかりになった夜、一番上の春子おばちゃんが祖母の隣で呟いた。
「病室入ったらいろんな機械つけられててなぁ…お医者さんがでっけぇ声で呼べっつーから耳元で叫んで…」
昼間は元気だったのに、と祖母が嘆いた。
「それからはもう、すぐで…」
2番目の礼子おばちゃんが春子おばちゃんを見て口を開く。
祖父の傍で円を描くように座る私たちは眠る祖父に視線を向ける。
「入院嫌がってたからね、やっと帰れてお父さんもほっとしてるよ」
母と四番目の恵子おばちゃんが顔を見合わせて言った。
「爺さんにはよく遊んでもらったなぁ」
長従兄の聡兄があぐらをかいた姿勢を後ろ手で支え天井を仰ぐ。
「あんたは初めての男の子だから余計に爺ちゃんが喜んだんよ」
「自分の子は女ばっかだったもんねぇ」
「恵子も久美子も生まれたときお父さん『また女か!』って肩落として」
「だから久美子は私が名前つけたんよ。父さんが『何でも好きなのつけろ』っていうから」
「酷いでしょ!?」
母が嘆くと周りがどっと笑う。
「父さん今頃くしゃみしてるよ」
「別に悪口いってるんじゃないからね!」
「『うるせぇ!』って言ってるよ」
賑やかなみんなの傍らでただ祖父は静かに眠っていた。
「…亡くなったときはさ、涙なんて出なかったのに何で思い出話になると涙が出るのかね?」
笑っていた三番目の妙子おばちゃんがポロリと涙を零した。
それに釣られていとこの麻理ちゃんが手で顔を覆う。ティッシュを差し出す聡兄のうちの美咲ちゃんも目が赤い。
涙は瞬時にみんなに感染する。
あれだけ賑やかだった場は一瞬にして涙に包まれ、啜り泣く声が響いた。
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