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short story
第19章 夏の欠片

「あー、やだやだ湿っぽい」



春子おばちゃんが無理矢理笑い、場の空気を入れ替える。



「そういえば夏乃、結婚するんだって?」


「東京の人?」


「うん…」


「爺ちゃん亡くなる数日前よ。『夏乃結婚するんだってー』って言ったら爺ちゃん嬉しそうに笑ってねぇ…『子ども生まれたらまた名前つけなきゃいけねぇ』って」


「爺さん夏乃の子に名前つける気でいたんか!?」


「夏乃の名前も爺さんが付けたんだよね」


「娘の名前は姉ちゃんに丸投げなのに孫の名前はつけるんだもん嫌んなっちゃう」



母の一言にまたみんなが笑った。




夏の暑い日に生まれたから「夏乃」と付けられたと私は聞いていた。
そして生命力溢れる夏は、祖父の一番好きな季節であると。



…そしてその大好きにな季節に祖父は人生を終えた。
孫といえ、私は祖父という人の全て知っている訳ではないけれど、少なくとも私たちには優しくておおらかで、懐の深い人だったと思う。




翌日の葬儀には暑い日にもかかわらず、沢山の人が参列してくれた。
そしてそれは、そのまま祖父の人柄を表しているのだと思った。
私たちから見た祖父は誰から見てもきっと同じ人柄だったのだろう。



私たちはその日もよく笑い、節目節目でわんわん泣いた。



すっかり小さくなった祖父と祖父の家についたのは、もう夕方に近い時間だった。
それから叔母が淹れてくれたお茶をいただき、私たち家族は家に帰った。




「夏乃は明日帰るの?」


「うん、仕事そんなに休めないから」


「優介は?」


「俺も」


「そう…」



母が寂しそうに呟いた。



「今度は幸人くんと一緒に帰ってこいよ」



ハンドルを握る父がミラー越しに私を見る。



「うん、」


「爺ちゃんにも見せてあげたかったねぇ…あんたのドレス姿」


「うん…」



私の中にまだ祖父の死は実感としてない。
様々な現実を目の当たりにして涙を零したけれど、また帰ってくれば祖父があの家にいる気がしてならない。



「夏乃か!?」



そう言って嬉しそうに目を細める祖父の姿が瞼に浮かぶ。
私の中で祖父はまだ確実に生きているのだ。




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