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short story
第9章 天の川 /yuriko
結局雨の中、私は克己くんだけを傘に入れ車に向かう。


「ありがとうございました。それに遅くなってしまって申し訳ありません・・・」


「いえ、これから克己くんはおばあちゃんのお家ですか?」


「母は姉に付き添っているので克己は義兄のところに送ります」


「そうですか・・・明日のお迎えはお父さんですか?」


「迎えはしばらく私が・・・」


「毎日このくらいになりますか?」


「すみません、急いで来たのですがこれ以上に早くは無理なもので」


「・・・・・・・・・」



私は構わないけど毎日一人で待つのは克己くんが可哀想だと思った。
それに先生によっては時間外を極端に嫌う人も居る。


あの頃はまだ世の中が緩かったから私は克己くんのおじさんに提案した。


「良かったら克己くん、うちで預かりましょうか?」


「えっ?」


「私、三丁目の“北沢たばこ”の向かいのアパートに住んでいて・・・もしよろしければ私が上がる時に克己くんも一緒に連れて帰りますよ」


「でもそれでは・・・」


「私一人暮らしですし、そうすれば克己くんのおじさんもお仕事急がずに済むんじゃありません?」


その人は少し考えて・・・「お言葉に甘えさせていただきます」と私に頭を下げた。


「申し遅れました。私は山下と申します」


その人は胸の内ポケットから名刺を取り出して私に渡した。


山下康仁・・・
名刺にはそう書いてあった。



「克己くんと名字が違うんですね」


「姉は嫁いでいますから」


「それもそうですね」


名刺の名前を見ていると山下さんが私に訊ねる。


「失礼ですが先生のお名前は?」


「あっ、こちらこそ申し遅れました。佐々木由里子と申します。すみません・・・仕事柄名刺は持ってなくて」


「いえ、いいんです・・・でも女性にこんな事聞くのは失礼ですが由里子さんの電話番号を教えていただいてもよろしいですか?」


「は、はい!」


山下さんの出した手帳に名前と電話番号を書いて渡した。
「由里子さん」と呼ばれた事にまたドキドキしてしまった。



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