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ピンクの扉
第16章 真実の愛

運転手は津田圭一と名乗った。
年の頃は20代半ばだろうか。


「あんた、訳ありみたいだな」

いや、話したくなければ話さなくてもいいぜと
言ってくれる運転手に経緯を話した。

こうして車で送り届けようとしてくれているし、
ずっと黙り込んでいるわけにはいかなかったからだ。


「ふ~ん…そりゃ災難だったな。
旦那さんが浮気してるかどうかは抜きにして、
まずは落ち着いて話し合うことだな」

年若いのに達観した意見を男は言った。


そうこうしているうちに前方に駅の灯りが見えた。

その駅でいいわと告げると

「あそこはダメだ。
なにせさっきも言ったように無人駅だしよぉ。
もう少し先に旅館があった記憶があるんだ。
そこにした方がいいって」

少し回り道だけど、
あんたみたいな美人を
ほっぽり出す訳にもいかねえしなと
男はケラケラと笑った。


しかし、目的とする旅館に着いてみると
廃屋のような感じだった。

「ありゃ、潰れちまったか…」

こりや、もう少し足を延ばして
登別まで行くかと男が提案した。

「随分と回り道になってしまうんではないですか?」

桃子は親切な運転手の仕事のことを気にかけた。


「まあ、回り道っちゃ回り道だけどよ…
大丈夫、時間はタップリとあるしさ。
それよりもちょいとばかり距離があるんで
仮眠させてもらってもいいかな?」

あんたは後ろの仮眠席を使えばいい。

俺は座席でいいからよ。と男は言ってくれた。

「そんな…申し訳ないわ…
あなたが後ろを使って下さい。
私は座席でかまわないんで…」

どうせ眠れないに決まっているのだから
ここでいいわと桃子はおもった。

「じゃあ…少し狭いけど一緒に寝るかい?」

その提案で了解しないと
男は意地でも運転席から動こうとはしないようすだった。


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