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奴隷からのはじまり。
第2章 に、ねぇもっとシようよ。
 愛乃が誰からも好かれるのは、空が青いのと同じくらいあたりまえのことだ。彼女と誰かの間に問題が起こったとしても、たいてい、愛乃のほうが先にあの美しい瞳に涙を浮かべて、周囲を味方につけてしまう。誰もが、悪魔のとりこになったかのように、愛乃に夢中だった。
 愛乃から特別の寵愛を受ける玖路香が、ほかの生徒たちからねたまれたのも、無理のないことだ。
 玖路香はある日の昼休みに、突然、音楽準備室に呼び出された。愛乃が職員室に呼ばれて、玖路香が一人になったすきに。
「……何なの、何か用?」
 薄暗い音楽準備室で、四、五人のクラスメイトに取り囲まれた玖路香は、不安に声を震わせる。
「あら、考えなくとも分かっていることじゃなくて?」
 長い黒髪を平安の姫君風にした玲(れい)が、指揮棒で自身の手を打って浅く笑った。彼女が首謀者だろう。愛乃を誰より熱心に追いかけ、オーケストラ部に勧誘していたくらいだから。
 愛乃のほうは、たいして興味もなさそうな顔でやんわり断っていたが、諦められなかったのかもしれない。玲は小学校から愛乃といっしょで、長い時間を共有したのに振り向いてもらえない悔しさを抱え続けていたのだから。
「……分からない」
 つぶやいた玖路香の髪を、近くにいた少女が思い切り引っ張った。
「とぼけんじゃねーよ」
 ドスのきいた声が、罵る。
「愛乃さんにベタベタしちゃってさ。玲さんが大目に見てるからって、調子ノリ過ぎじゃないの?」
 男のような、がさつなしゃべり方をする彼女は、奈(な)央(お)。玲を慕ってべったりくっついている下僕に近い存在だ。玲の言うことならなんでもきく。黒髪ショートで小柄なので、少年っぽい印象だ。
 この、玲と奈央を中心にした少女たちのグループによって、玖路香は手足を拘束され、抵抗もむなしく、恥ずかしい姿にされてしまった。
「やっ……なんでこんなっ……」
 瞳に涙がたまるのも無理はない。
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