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奴隷からのはじまり。
第4章 よん、ヤキいれてあげる。
 胸が冷たくなるのを感じて、自分を抱きしめるような仕草をする玖路香に、愛乃はさらに言う。
「彼、今夜会いに来るんだ。紅っていうの。くれないって書いて、コウ。イケメンだよ」
 そんな話を聞かされて、玖路香の気が晴れるわけもなく、二人は夜まであまり口をきかなかった。
 インターホンが鳴ったのは、午後八時を少し過ぎたころだ。愛乃が黒いドレスをひるがえして玄関に行った。玖路香も少しだけ様子を伺ってみたら、花束を抱えた、白いスーツ姿の長身の青年がいるのが見えた。整った冷たい印象の顔を崩して、愛乃に久々に会えてうれしいとか言っている。
「くうちゃん、ちょっとこっち来て」
 有無をいわさぬ声で呼ばれて、玖路香は二人のほうへ行った。
「はじめまして。玖路香です」
「あぁ。愛乃の遊び相手ね。僕は紅。よろしく」
 白いスーツの中が、濃い紫のシャツなあたりからして、どことなく堅気の人ではないイメージだ。
 しかし、愛乃は普段より少しとろんとした目をして甘えた声でねだる。
「ねえ、コウ。しばらく会えなくてずっと寂しかったの。学校卒業するのが待ち遠しいな。早く結婚したいもの」
 人差し指を口元に当てて、誘惑しているような表情だ。彼女のこういう確信犯的な行動に心を持って行かれたのは、玖路香だけではないのだろう。
「結婚までは処女でいたいって言ったものな。僕も早く、君が欲しいと思ってるよ」
 キザな感じで答えて、紅は指先で愛乃の頬を撫でた。玖路香の胸の内がざわりとする。
 結婚の約束が確かなものなら、それが実現する日には、玖路香は必要なくなるのだろう。
 甘い雰囲気の二人のそばでうつむく玖路香に、愛乃の声が聞こえた。
「ねぇ、もう我慢できないの。コウの、テクを見せて」
 くうちゃん貸してあげるから、と信じられない言葉がそれに続く。
「しかたないな」
 やはりここでも、玖路香の意志は関係ないようなのだった。

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