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奴隷からのはじまり。
第5章 ご、お父様お願い。
 招き入れられ、愛乃の部屋ではなく、先ほど男がいた部屋に通される。
「よく来たね。君が、玖路香さんか」
「はい……」
 穏やかに話しかけられ、おずおずとうなずいた玖路香は、彼の背後のベッドに横たわる愛乃を見つけて、悲鳴をあげそうになった。
 あの美しい人形のような愛乃が手首を縛られて、ベッドに横になった状態で拘束されていたからだ。長い睫毛を伏せて、どうやら意識は失っているらしかった。白いドレスを着せられてはいるが、生地が薄くて、下着をつけていない身体が透けて見えている。あちこちに、鞭打たれたような傷があった。誰が見ても、情事の後の姿だ。
「まさか……」
 玖路香は震える口唇でつぶやく。
「いつものことだよ。意識はないが、命に別状はない」
 男は淡々としていた。
「娘は強情な上に冷感症だからね。私が次に帰るまでに治しておけといったのに、相変わらずヘタな芝居でごまかすことしかできない。おまけに、奴隷を作っておもちゃにすることまで覚えてしまって。紅のような役立たずを監視役につけたのは間違いだったかな」
 玖路香の背筋は凍り付いていく。
 実の父親にこんな行為を強いられる愛乃が哀れでならなかった。
「ひどい……」
 自分だって愛乃にはさんざんなぶられたのに、お人好しのように同情してしまう。
 やがてその視線の先で、愛乃が目を覚ました。
「う……」
 涙の跡を残す瞳で見回し、玖路香をみとめて目を大きく開く。
「くう、ちゃん……」
 なんでここにいるの、と口唇が動いた。
「私が呼んだからね」
 男が答えてやって愛乃の頬を撫でる。愛乃の身体がびくんとこわばった。
「さぁ、お客さんも来てくれたし、続きを始めよう」
 今からまた何か、恐ろしいことを始めるのだ。
「待ってください」
 止めようとした玖路香を、静かに入ってきた警備員が背後から押さえ、椅子にくくりつけた。
「そこで見ておいで」
 どうやら公開処刑にも似た行為は、玖路香を観客にして行われるようだった。

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