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泡のように
第15章 14.
 きりがないから。
 口の中で何度も反芻して、やっと理解したとき、確か私は、泣いたと思う。
 アホの3歳児がダダこねるようなやり方で。

 いやだいやだ、いやだ、イヤ、嫌。そんなこと言わないでって、泣いた。

 お兄ちゃんは太い指の、太い関節の先の、爪のはしに出来たささくれをいじっていた。
 いじりながら、泣き続ける私に、言った。

「か、勘違いさせてしまっていたら、申し訳ないんだけど」

 そう切り出すお兄ちゃんの親指の爪は、何度もささくれを引っ掛けては戻し、引っ掛けては戻しを繰り返していた。

「兄ちゃんは、兄ちゃんは・・・。智恵子のこと、好きだよ。こ、心から、大事に思ってる。でもそれは、それはね・・・」

 次の言葉が出るときには、ささくれはちぎれ、血が出ていた。

「い・・・妹としてって、ことでさ」


 あ、思い出した。 


「考えていたんだ。このまま関係を続けても、お互いに何もいいことがないって。ごめんね。ごめん。智恵子は妹。それ以上でもそれ以下でもないよ。
だから、もう終わろう。ごめん。ほんとうに、ごめん」


 あの時、お兄ちゃんも泣いていたんだった。 


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