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泡のように
第17章 16.
 ウサギになったお母さんの瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。

「・・・わかったわ。誤解していた点については、訂正する。酷いこと言って、悪かったわ」

 ああ、これで、今までのような、親子関係には戻れない。

 長い沈黙の後、私の名前を呼んだお母さんの語尾には、他の教師と同様に、ため息が混じっていた。

「智恵子、もうひとつ、ついでに白状してちょうだい。あんた今、一体ドコのダレのウチで世話になってるの?篤志やお父さんとどうこうってのはもう分かったけど、それがあんたがウチに帰らない理由だって、お母さんはそう解釈していいわけなの?」

 ふと視線を感じて振り向くと、ベッドを仕切るカーテンの隙間から、向かいのベッドで入院中の水商売に従事していると思われる金髪のおばさんがこちらの様子を伺っているところだった。
 視線をお母さんに戻して、背中に野次馬根性丸出しの人間らしい熱い視線を感じながら、首を左右に振った。

「それもあるけど。ううん、最初はそうだったかも知れないけど。でも、今は違うよ。ねぇ、お母さんも山岸さんとヤルときさ、山岸さんのこと先生って呼ぶの?それか、呼ばれるの?私が世話になってる人はね、教室でもベッドでもね、私に先生って呼んで欲しがるんだよ」

 息を飲んだのは、お母さんより、覗きのおばさんのほうが、早かった。
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