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泡のように
第19章 18.
「でも木戸が、お兄ちゃんは中学では生徒にモテてたって言ってたけど」

 中央環状線は渋滞気味。 
 満腹の胃をシートベルトが圧迫している。

「モ、モテてた?ああ、世間一般の学生の概念で言うならば、こ、虎太朗の言う通りかもね」

 雲で覆われた真っ黒い空にたくさんのヘッドランプが眩しく浮かんでいる。

「カッコイイー、ステキー。それくらいが、モ、モテてるってことなら、兄ちゃんは、生徒にはモテるよ。顔だけは、悪くないから」
「・・・・なんだか、すごくひねくれた言い方に聞こえる」
「ひ、ひねくれてなんかないよ。事実だから受け入れているだけ。仮にあの子たちに、俺の本性を見せたら、悲鳴上げて逃げるよ。それくらい、インスタントな恋心は、兄ちゃんの中ではモテているうちには、カウントしない。だいたい生徒にモテたって、智恵子の彼氏じゃあるまいし、手を出したり、付き合ったりするわけないんだから、俺にとっては全く無意味」

 堪えきれず、吹き出してしまった。

「お兄ちゃんって心底モテそうにない性格だね」
「だ、だからずっと言ってるだろ!兄ちゃんは、じょ、女性と付き合ったり、結婚なんてする、し、資格なんて」
「でも私は好きだよ」

 驚いた様子で私を見つめるお兄ちゃんの瞳。
 
 こないだ、先生が言ってた。
 お前の兄貴の目、不気味だったな。あの目に睨まれてビビッたよ、まるで呪われたフランス人形みたいで。
 って。
 
 私は不気味だなんて思ったことはないんだけど。
 
「私はお兄ちゃんの本性見ても、キャー!って叫んで逃げたりしないよ?」

 クラクションを鳴らされ、ハッと気付いたお兄ちゃんは慌てて車を前進させた。
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