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泡のように
第20章 19.
「別にいいんじゃない?」

 メタボおじさんは事務所では私に可愛いなんてお世辞を言ったくせに、店に入ってからは一度も私の方を見ようとしない。
 
「俺だってフミ子とは歳が離れてるし。お前がデキた時フミ子は学生だったし。それに愛し合う男女の間に立つのは労力がいるから嫌いなんだ。だから特に反対する理由はないことにするよ。ん?そう言えばこの子いま妊娠してんのか?」

 この子、と言って親指で私を差す時も、視線は先生に向いたまま。

「してるわけねぇだろ」
「ふーん。どっちでもいいけどな。それでいくらいるって?」
「さぁ・・・サナエの時はどうしたっけかな」
「結納金でこれだな」

 太い指が3本。 
 目を丸くする私の横で、先生は納得していない様子で首を捻った。 

「親父はどう思う」
「いや・・・うーん、どうって言われてもな。この子、若いだろ?」

 また、私の方を見もせずに、親指で私を差す。

「そうだな。18になったとこだな」
「あんなんで、親が納得するか?」
「さぁ、どうだろうな」

 先生はふっと笑って、片方の眉毛を上げた。
 メタボおじさんも黙ったままニヤリと笑った。
 同じ顔がふたつ同時に笑うのは実に気味の悪い光景だった。

「分かった分かった。お前はまったく仕方ねぇな」
「いい親だね。嬉しくて涙が出るよ」
「それで、お前、まだあのとりあえずのアパートに住んでるのか?」
「あぁ、駅から近いからな。便利なんだよ意外と」
「便利ならあの家だって変わらなかっただろうが。あの女にはくれてやってないんだろ?だったら」
「離婚なんかしたこともない親父にはわかんねぇよ」

 メタボおじさんもまた、光り輝くお寿司を口に運んで、きちんと咀嚼し飲み込んでから言った。

「・・・ああ、そうか。それもそうだな。うん。わかったよ。間取り考えとけ」
「マジで?へぇ。つくづく俺に甘いなー、親父は」
「そりゃ血を分けた俺の可愛い息子なんだ。幸せになって欲しいと思うのは普通のことだろ?」
「ありがたいことだね」

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