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泡のように
第20章 19.
 結局私は一度も口を開かないまま、美味しいんだかマズイんだか高級すぎてわからない味のお寿司を食べ終わって店を出た。

 会計の際、メタボおじさんは夏用背広の胸ポケットからごく普通のマネークリップを取り出すと、ごく普通の紙幣を何枚か数えてから店員さんに手渡していた。

 息子の再婚のために結納金をウン百万と、そして2度目の新居をウン千万出してポンッ!と買ってあげる人間だから、ブラックカードとかそういう凄いクレジットカードを持っているんだって思い込んでいただけに、少しガッカリした。

 親父は俺のこと以外ではケチだからな。
 あんな事務所で社長やってて、あんな背広着てるけど、家では穴のあいたTシャツ着てんだぜ。
 車の中で、先生は笑いながら煙草をふかしていた。

 先生のお母さんは、先生やメタボおじさんとは似ても似つかない、小柄でやせっぽちな、それでいて気の強そうなメガネをかけた人だった。
 ちなみに、やっぱり一重瞼でね。

「式はどうするの?」

 汗をかいたグラスに入ったアイスコーヒーがみっつ、古めかしい赤茶色の光沢があるテーブルの上に並べられている。
 白髪染めして茶色くなった髪にソバージュをかけた青いワンピース姿のお母さんもまた、やっぱり私のことを見ようとしなかった。

「コイツがしたいって言うならするし。しないって言うならしない」

 先生の実家はメタボおじさんの事務所とは似ても似つかず、比べるとはるかに簡素なつくりだった。
 よくありがちな古い木造2階建ての、庭付き一戸建て。
 ボロい黄緑色の砂壁の応接間には、古い置き型の茶色いエアコンが設置されている。
 そこから流れ出す冷気は生ぬるく、汗が止まらなかった。

「そういうもんかしらね」

 首を傾げながら、どうぞ、と、先生のお母さんは仕草だけで私にアイスコーヒーを薦めた。

「リエには黙っといてくれよ。アイツ色々うるさいから」
「黙っとくも何も、せっかく帰ってきたのに会っていかないの?」
「いいよ、めんどくせぇし。そうだ、チカとアミに小遣いだけ渡しといてくれよ。どうせ正月も会わねぇから」

 そう言って先生はお尻のポケットからお年玉のポチ袋をふたつ取り出し、先生のお母さんに手渡した。
 先生のお母さんは再び、首を捻りながら先ほどと同じ言葉を呟いた。
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