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泡のように
第22章 21.
 レイナの家は、うちの団地の家とは比べ物にならないくらい・・・いいや、比較してはいけないくらい、片付いていた。
 ううん、違う。
 片付きすぎていた。
 まるで誰もそこで生活していないのではないかと錯覚するくらい。


「母さんは整理収納コンサルタントで。講習会とかスゲー人気あんだぜ。何ヶ月先まで予約いっぱいで」


 アキホはリビングにあるアイボリーの革製ソファに大きく足を投げ出して寝そべりつつ、やっぱり煙草をスパスパさせていた。

「今日も講習会があったから八田先生のお参りに行けなくて・・・」

 ソファの前に置かれた指紋ひとつないピカピカに磨かれたガラステーブルの上に、これまたピカピカのグラスに注がれた何ていう飲み物かすらわからないピンク色の液体が人数分並べられる。
 花柄のお盆を抱えるレイナの細い腕には、確かにロレックスがはまっていた。

「そうだ。鈴木先生は無事に退院されたの?」

 お母さんの旧姓、いいや、旧旧姓になるのか?
 その名でお母さんのことを尋ねたレイナは、お兄ちゃんの隣に腰を下ろした。ピンク色のコロコロ粘着ローラーを片手に持ちながら。

「あぁ、う、うん。無事に」

 お兄ちゃんはやはり、レイナに対してすら、お兄ちゃんだった。

「あの、その節は、ご心配を・・・」
「心配なんて何を言ってるの。篤志のお母さんなんだから、当然でしょう」
「あぁ、う、その、俺マジ今日手ぶらで・・・お見舞いをいただいたから、母さんから快気の内祝い贈っておいてくれって言われてたんだけど、すっかり忘れてて・・・その、俺が忘れてたからで、母さんが不義理な人間だとは、その、思わないでください」
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