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泡のように
第22章 21.
 顔を上げると、レイナはほこりひとつ見当たらないカーペットの上にコロコロの粘着面を転がしながら言った。

「わたしがね、篤志を生んだのは13歳で中学1年のときだったの。でもね、篤志は欲しくて出来た子供だったのよ?」

 ふふふ、酒焼けした声でぶりっこっぽく笑いつつ、レイナはコロコロを転がし続けている。

「父親が事業に成功して浮かれて浮気しまくったせいで、母親はえんのはるばるエクアドルから嫁に来たのに、日本語も分からず寂しい思いして、そして気付いたら国に帰ってた。“わたしたち”を置いてね」

 ふふふ。コロコロコロコロ、同じ場所をレイナは転がし続ける。

「その頃、篤志ができた。嬉しかった。ほんとうに、嬉しかったのよ。でも、父親にバレて・・・智恵子ちゃん、金八先生観たことある?一期シリーズで生徒が妊娠出産するの、あるでしょう。あれと同じだったのよ。バレたときにはもう中絶出来ないって。わたしはうまく隠せたと思った。だってもう8ヶ月だったから。生むしかないでしょ?生んですぐね、1ヶ月もしないうちに鈴木先生がうちに来たの。どこから聞いたのか分からないけど、私が赤ちゃんを産んだって聞きつけて。篤志のこと、何度も可愛いって言って、それから毎日のように会いに来てくれた。それから色々あって、篤志が3ヶ月になった頃にね、中学を卒業したら迎えに行くから3年間だけって約束で、八田先生と鈴木先生ご夫妻にね、預けたのよ。鈴木先生のクラスになったことはなかったけど、八田先生は6年生の時に担任で、すごく優しくて頼りになる方だったから信じてたの。でも、どれだけ尋ねられたって、父親のことは話さなかった。本当のことを言ったらあまりよくないとは分かってたから」
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