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泡のように
第22章 21.
 そうそう。
 レイナは嬉しそうに手を打って立ち上がり、リビングのドアを出てどこかへ行ってしまった。
 どこもかしこもピカピカに光る新築のリビングに静寂が訪れる。

 お兄ちゃんは天井を見上げたままアキホに「1本くれる?」と小さな声で尋ね、アキホもまたお兄ちゃんのほうを見ずにマルボロを1本ソフトケースから抜き取ると、ライターと共に手渡した。
 火をつける渇いた音は、お兄ちゃんには似合わなかった。

「これこれ、見て」

 パタパタとスリッパを鳴らしながらリビングに戻ってきたレイナの手には、ステンレスに切り絵細工を施したようなフレームの写真立てが握られていた。

「ほら。その時の写真」

 そう言ってレイナが差し出した写真立てには、まだ声が酒に焼けてなかったであろう若かりし日の頃のレイナと、今よりは卑屈さがマシであったと予測できる、今の姿からはとても想像出来ない、それこそもやしのような体型の小さい頃のお兄ちゃんが、なんとも言えない顔で揃って佇んでいる写真が収められていた。
 そう。
 昔お兄ちゃんが私に言った通り、どこかの大学と思われる、白線がいっぱい入った緑色の芝生の前で撮影された、写真が。

「あの日はね、ちょうどパパの試合があったから、観に行ったのよ。でも困っちゃったわ。この子ね、わたしに会ってもひとっことも喋ってくれないんだもん。何を聞いても何を話してもちょっとニヤつくだけでね。試合が始まっても全然つまんなそうで、そのうち気付いたら寝ちゃってて。結局ほとんど話をしないままわたしが友達に預けてたアキホを迎えに行かなきゃいけない時間になったから、試合のあとにパパとちょっとだけ3人で会って、それで終わり」
 
 あ、そうだ。篤志。

 レイナは視線を写真立てからお兄ちゃんに向けた。
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