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泡のように
第4章 3.
 お母さんは煙草に火を着けた。
 そしてすぐ、嫉妬を顔全体に浮かべているおっさんに気付き、頭を垂れた。

「あ・・・ゴメンなさい。アナタがいるのについ、健児さんの話を」

 お母さんはとてもじゃないが悪いと思っている風には見えない、肺にケムリを溜め込んだままのスタイルでおっさんに詫びていた。
 しかしおっさんは首を左右に振り優しく微笑んでいる。

「いや、構わないよ。八田先生は本当に立派な方だった。義理の父親である八田先生との約束を果たすために、篤志君も努力してるんだろう」

 おっさんはさもお父さんを知っているかのように話しているが、実際は会ったことすらない。
 お母さんの受け売りなだけだ。
 しかしお母さんは嬉しそうに「アナタ・・・ありがとう・・・」と鼻からケムリを吐き出しながらお礼を言っている。

 幸せな夫婦ってきっとこの二人みたいなのを指すんだろう。



 おっさんの受け売り通り、死んだ私のお父さんはすごく立派な教師だったそうだ。
 生徒のために生きているような先生だったと、未だに命日に墓参りに訪れる元教え子たちは口を揃えて言う。
 いいおっさんおばはんになった彼らは子供の私の目から見ても、とても立派で、誠実で、真面目だ。
 もちろん社会的地位からの観点でなく、人間として。
 お父さんの人柄と行動が彼らにどれだけの影響を与えたんだろうと、考えると身震いしてしまう。
 そんな人間だったから、お父さんはお兄ちゃんを引き取ったんだと思う。


 お兄ちゃんは元々、お父さんの元教え子がたったの13歳で生んだ、誰が父親かも分からない、不憫な子供だったそうだ。
 当時子供のいなかった、ていうか新婚ホヤホヤだったお父さんとお母さんが、どんな決意をして、いくら元教え子と言っても所詮他人の赤ん坊であるお兄ちゃんを引き取ったのか、詳しいことは知らない。
 けれどお兄ちゃんは間違いなく、お父さんの愛情と情熱をたっぷり注いでもらって育ったんだって、それだけは分かる。
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