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泡のように
第25章 24.
 もう2度と、秋芳さんに身体を触らせちゃだめだよ。

 お兄ちゃんは今朝、自分も始業式のために出勤する際、まともな兄貴と、教師の顔を繕って、私にそう言った。
 本性を曝け出した男は、ある意味で、この世で最も崇高な存在だ。
 汚れきっているのはもしかしたら私のほうかも知れない。
 大好きだよとお兄ちゃんに言って、頷いてみせた。
 手に入れたかったのは、お兄ちゃんの愛、を装った欲望、のあとにくる、あそこの擦り切れた痛みだったのだろうか?

 ドアの向こうに消えるお兄ちゃんの前髪はやっぱりエロゲーの主人公みたいだった。



 定期的にケータイをチェックするという習慣がないお兄ちゃんは、勤務中だからなのか、何度電話しても出なかった。
 だから、先生のアパートの、先生のいつものベッドの中で、エアコンの温度を20度設定にして、タオルケットに頭からつま先まで包まって、夜になるのを待っていた。

 今までは鍵が開くガチャンって音が待ち遠しくてたまらなかった。
 でも今ばかりは、先生が帰って来るのが怖かった。
 鍵が開けば、私もまた、お兄ちゃんと同様に、まったくまともでない自分と向き合わなければいけないからだ。

 薄暗いタオルケットの中で、先生からの置き手紙を何度も何度も読み返した。
 書道師範の資格を持つ先生の字はまるで教科書の活字のようで、ますます見た目と違って、違和感だらけ。

 そんな字で、夜中に何度も電話して悪かったとか、朝ごはんと昼ごはんが冷蔵庫の中に入ってるとか、書くなよ。
 智恵ちゃんのことが好きだなんて、今日の晩はどっか食べに行こうなんて、書くなよ。

 私のことなんか、こんな最低な女のことなんか、身体以外のところを、愛したりするなよ。

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