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泡のように
第25章 24.
 ドアノブがガチャンと鳴ったのは、19時を過ぎた頃だった。
 電気がパチンと点いて、足音がベッドに近付いてくる。
 重たいカバンを床の上に下ろした音が聞こえたあと、ベッドの足元がギシッと軋んだ。
 先生はタオルケットを剥ぎ取ったりはしなかった。

「昼間は殴ったりして悪かった」

 ため息と、ライターの渇いた音と、そして、また、ため息。

「痛かったろ。ごめんな。さすがにちょっと混乱したわ。いきなり別れたいとか言われてよ。親に挨拶までしたのにとか考えちまって」

 タオルケットから恐る恐る顔を出した私を見て、先生は細い目をぎょっと丸くした。

「なんだよ、泣いてんのかよ!」

 我慢していた涙がワッと溢れたのは、驚くほど自分勝手な理由だ。
 学校で私をぶった怖い顔の先生じゃなくて、いつものヘラヘラした優しい先生の顔に戻っててホッとしたからっていう、子供みたいなことなのだ。
 
「マジかよ・・・お前が泣くようなことじゃねぇだろ?別れたいって言いだしたのはお前のほうなのに」

 止めどもなく溢れる涙をタオルケットで何度も拭う。
 しかし、拭えば拭うほど、涙は次々に溢れてくる。
 子供みたいに泣きじゃくる私を、先生は戸惑いながら抱き寄せた。

「意味わかんねぇ奴だな。俺と別れたいのか別れたくないのかハッキリしろよ。相変わらず自主性のない奴だな・・・俺のが泣きたいんだぞ。あ?お前指輪どうした?はめてねぇじゃねぇか」

 ぐちゃぐちゃに乱れた私の髪を先生は撫でる。
 大きなかたい手のひらで何度も私の頬を撫でて、流れる涙を拭ってくれる。

「なんだよ・・・山岸までサナエみたいな別れ方しないでくれよ。そっちが別れるって言い出したくせに、俺が悪者みたいな感じでいるとか、あんまりだろ?」

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