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泡のように
第26章 25.
「マージで、もったいないねぇ。これが人毛のエクステだったら、いったいいくらぶんなんだろうね」

 アキホの旦那は暇なのか、または“あっくん”の妹が来店したからなのか分からんが、一向に仕事場である2階に戻る気配はなく、髪をバッサリ切られる地味な少女をひたすら凝視していた。

「今日帰ったら、お母さんとか、あっくんとかがさぁ。なんじゃその髪!つって、びっくりするんじゃない?」

 彼の、ごく一般的な男性のサイズだと思われる平凡な太さの腕には、杭にかけられた臨終気味のキリストが、カラフルな色彩でおどろおどろしく描かれている。
 私はそれを見つめながら、自分の髪型が剛力彩芽になっていくのを待っていた。

「さぁ・・・どうでしょうね」

 髪型だけじゃなくて、顔も剛力彩芽ちゃんになれたらいいのに。
 なんて考えたら、自動的に昨日のことを思い出していた。

 先生には少し考える時間が欲しいと言った。
 先生の気持ちに対する、女子高生らしい動揺を抱いたからだ。
 
 それに対し先生は、仕方ねぇ奴だなって言って、やっぱり笑ってた。
 類は友を呼ぶと言うが、それが事実ならば、先生は私を愛するに値する、最高の男だろう。
 カワイソウな女子高生を装って、捨てないで、なんていつも口走っていた。
 しかし、先生のことを手放すには惜しいと思っていたのはもしかしたら、私の方だったのだろうか?
 

 昨日の晩。
 先生は私の気持ちを考慮してか、おっぱいに触ったりしなかった。
 あいつにあんな我慢強い一面があったとは知らなかった。
 電車に乗って団地に帰ると、お兄ちゃんは黙って私を迎えてくれた。
 でもすぐにジムに出掛けてしまって、遅くまで帰らなかった。
 朝も早く出掛けてしまって、結局、たいした会話もしないまま。

 髪を切ろうと思ったのは、先生と別れるかも知れないなんてセンチメンタルな気持ちは微塵にもなくてね。
 私たちのことを知る誰か、先生以外の人、に、会いたかった、ということだけだったのかも知れない。
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