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泡のように
第26章 25.
「篤志って髪長いのが好きじゃなかったっけ」

 唐突にアキホが呟いたのは、髪がすべて顎のラインで揃ってしまってからだった。

「え」

 鏡越しにアキホを見つめる。
 アキホは手にしていたハサミを、太もものあたりに下ろした。

「よかったのかなって今更なんとなく、思ってな」

 不思議そうな顔で、黒い瞳で、私のことを、アキホは見つめ返している。
 アキホの旦那も、なんとなく神妙な顔つきで、私を見つめていた。

「まぁもう切っちまったから、後悔したっておせーけど?」

 けったいな柄のタトゥが入った腕を再び上げて、アキホは私の髪にハサミを入れた。
 軽快な音が鳴り、パラパラと黒い髪が床に舞い落ちていく。


 確信に触れたのはアキホの旦那だった。

「別れたっていうのは、なに?兄妹だからなん?」

 パイプ椅子から立ち上がり、ふた席しかないもうかたいっぽのアンティークな革張りのカット椅子に腰掛け、横から私を見つめる。

「あっくん、すごく荒れてたけど。あの時は」

 もう3年くらい前?なんて続けて、当たり前みたいに煙草の箱をジーパンのポケットから取り出す。
 サービス業なのに禁煙という概念はないんだろうか?
 考えている間にも、古材板張りの天井に紫煙が立ち込めた。

「どうして知ってるんですか?」

 どちらに聞き返せば正解なのか分からないまま、私は目だけをアキホとその旦那の間を行き来させて尋ねた。
 返答したのもまた、アキホの旦那だった。

「本人から聞いたけど?」

 本人から聞いた?
 そうなると一体、お兄ちゃんはいつからアキホたちと繋がってたんだろう。
 きっと私の髪が長かろうが短かろうが、何の興味も示さないであろう、お兄ちゃんの本心を想像しながら、頭の中をアキホの旦那の言葉でいっぱいにさせた。
 
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