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泡のように
第4章 3.
 どっちみちクズな理由だと思うのだが。
 サッサとジャージを着てポケットに財布を入れ、車の鍵と煙草の箱を握った先生の背中を呆然と見送る。

「何が欲しい智恵ちゃん」

 智恵ちゃん、だなんてセックスする前の愛撫の時点でしか普段は呼ばないのに、先生はよほど自分の行動を反省したのか、優しい彼氏になろうと努めているらしい。まぁ、あくまで一時的なものだと思うが。

「早く行こうぜ」

 先生はすでに玄関で、先ほど私を迎え入れた際一刻も早く私を抱きたいがために急いで部屋の中に上がったため結果的に揃えもせず脱ぎっぱなしという状況になっていたひっくり返ったままのクロックスに片方ずつ足を入れ、そしてドアを開けながら私を手招きした。
 なぜならば、私がベッドの前に突っ立ったままだったからだ。

「早く来いって。服でも買ってやるよ」

 腕組みして私を見つめる先生に視線を返しながら、玄関には向かわずベッドの上に腰を下ろした。

「遠慮しなくていいんだぞ。クリスマスも誕生日も何もしてやってねぇんだし」

 確かに今まで先生には何もプレゼントを貰ったことがない。貰いたいと思ったことすらない。そういう普遍的なカップル間のイベントや行事に一切関心がないのだ。

「智恵ちゃん?」

 何も答えず俯き続ける私に、先生はため息をついてクロックスを脱ぎ、ベッドまで引き返してきた。

「どうした?なに?怒ってんの?」

 前代未聞ならば私だってそうだ。
 セックスに関してはハイハイ言って先生に従うのに、この件に関しては従わない。
 疑念を細い目に浮かべつつも面倒くさそうに私の髪を撫でる先生の手を握って、セーラー服の中のブラジャーの外れたおっぱいの上に重ねた。

「買い物なんか行きたくない」

 そして、前屈みになっている先生の股間に手を伸ばし触る。上下に撫でるたび、シャカシャカと生地の擦れる音がした。

「何も欲しくないの。先生がそばにいてくれたら。ねぇ、さっきの続きして?」

 呆気に取られている先生の細い目は、しばしのあいだパチパチと瞬きを繰り返し、そしてじきに欲情した男の目に変わった。
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